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大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)1454号 判決 1957年3月15日

伊豫銀行

事実

原告は、被告が訴外四国林産株式会社宛に振出した 金額二三〇、〇〇〇円、満期昭和二五年二月二〇日、支払地振出地とも大阪市、支払場所株式会社協和銀行玉造支店なる約束手形外七通の額面合計一、五九〇、〇〇〇円の約束手形を受取人から裏書譲渡を受け期日に手形を呈示したが拒絶された。

理由

被告は右各手形は四国林産株式会社との間に締結した材木の売買契約につき、その前渡金の支払、または一時資金を融通するために、手形金額のみ記載し他の手形記載要件は白地の儘、振出人として、記名捺印して同会社に振出し交付したもので当時同会社との間に、前渡金手形については被告に対し材木を発送する毎に、代金に相応する手形金額の手形の白地部分を補充してこれを使用し、送材せぬ限りこれを使用しない、また貸付手形については満期に同会社において金員を調達して支払をなし、被告にこれが支払をなさしめない特約があつたのに、同会社において被告に対し何等材木を発送しないで恣に右手形を使用し、而も補充権を濫用したものであり、原告は右手形振出の事情を知つて、四国林産株式会社からこれが裏書譲渡を受けたもので、右手形振出の事情を知らなかつたとしても重大な過失があるので、被告は原告に対し右手形金支払の義務がないと主張し、原告はかかる事情を知らず、全く善意で本件手形を取得したものであると主張するので考えるに、仮りに本件手形振出について被告と四国林産株式会社との間に被告主張の如き特約があつたとしても、原告が本件手形取得当時かかる特約の存在を知つていたことについては、証拠なく、却つて証拠によれば、原告は四国林産株式会社が被告に材木を売り渡しその代金の支払として受領した手形であると信じて、本件手形を取得したものであることが認められる。

また証拠によると、四国林産株式会社の社長であつた石川実個人が金額一二、〇〇〇、〇〇〇円支払地松山市支払場所株式会社伊豫合同銀行なる約束手形一通を満期白地の儘振出して、受取人四国林産株式会社に交付し、同会社から裏書譲渡を受けた被告が満期を昭和二四年一二月三日と補充し、株式会社百十四銀行にこれが取立委任をなし、同銀行において満期、支払場所に呈示してその支払を求めて拒絶せられたこと、その後に原告が本件手形八通の裏書譲渡を受けて手形割引をしたものであり、右手形割引にあたり、従来四国林産株式会社を信用して当座取引を継続してきた原告として、同会社から本件手形が材木代金の支払として受領したものであるといわれ、かつ同会社が被告に材木を売り渡したことを証する被告宛の販売内訳書、納品書、送状を示され、それをその儘信用して本件手形の割引をなしたものであることが認められるが。

原告において石川実個人の振出した手形が不渡となつたことを知つた後に、本件手形を取得したり、或は原告が本件手形割引にあたり四国林産株式会社から示された証憑書類をその儘信用したからといつて、それだけでは原告が本件手形取得にあたり、被告主張の如き特約の存することを知らなかつたことに重大なる過失があるものとも考えられないばかりでなく、その他右重過失を推断せしむべき被告主張の事実はこれを認むべき資料がないので、被告の抗弁は採用することができない。

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